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2025.09.16

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ジン・デポ 神戸三宮店

【徹底レビュー】ラコ アーヘン39 ポーラー:歴史の魂が、極北の光を纏うとき。世界限定250本の傑作を解剖する




【徹底レビュー】ラコ アーヘン39 ポーラー:歴史の魂が、極北の光を纏うとき。世界限定250本の傑作を解剖する


 

時計は、単に時を告げる道具だろうか。いや、真に心を揺さぶるタイムピースは、その腕の上で一つの物語を語り、所有者の感性と共鳴する。今回我々がレンズを向けるのは、そんな「物語る時計」の真髄を体現した一本、ドイツの老舗**ラコ(Laco)が世に送り出した「アーヘン39 ポーラー」(Ref. 862184)**だ。

世界でわずか250人しか手にすることのできないこの限定モデルは、一見すると爽やかでモダンなパイロットウォッチ。しかし、その純白の文字盤の下には、第二次世界大戦の空を駆け巡った計器の記憶と、極北の地の凍てつくような美しさが、幾重にも織り込まれている。

この記事では、単なるスペック紹介に留まらず、この時計がなぜこれほどまでに魅力的で、コレクターの心を掴んで離さないのか、その歴史的背景からデザインの細部に至るまで、深く、そして徹底的に解剖していく。

 

第1章:血統の証明 – なぜラコは「本物」なのか


 

この時計を語る上で、まず触れなければならないのは、ラコというブランドが持つ揺るぎない「正統性」だ。1925年、ドイツの時計産業の中心地プフォルツハイムで創業したラコ 。その名を時計史に刻み込んだのは、第二次世界大戦中、ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)のために高精度の観測時計、通称**「B-Uhr(ベー・ウーア)」**を製造・納入した、わずか5社の一員であったという事実である 。



A.ランゲ&ゾーネ、IWC、ストーヴァ、ヴェンペ、そしてラコ。このエリート集団のみが、軍の厳格な要求仕様を満たす航法用計器の製造を許されたのだ 。B-Uhrは、パイロットが身につけるアクセサリーではなく、天測航法によって自らの位置を割り出し、作戦を遂行するための、まさに命綱ともいえる精密機器だった 。



「アーヘン39 ポーラー」は、この歴史の直系の子孫。そのデザインの根幹には、単なる模倣ではない、本物の血統が流れているのである。

 

第2章:文字盤の解剖 – 極北の情景を腕元に


 

この時計の心臓部であり、その個性を最も雄弁に物語るのが、息をのむほどに美しい文字盤だ。ここには、「ポーラー(極地)」というコンセプトを体現するための、緻密な計算と美学が凝縮されている。

 

反逆の白:歴史からの意図的な逸脱


 

まず目を奪われるのは、歴史的なB-Uhrが例外なく採用したマットブラックとは対照的な、鮮烈なマットホワイトの文字盤だ 。これは、どこまでも広がる北極圏の雪原の静寂と、一点の曇りもない氷の透明感を表現している 。この「白」こそが、歴史的モデルへの単なる復刻ではなく、現代的な物語を付加するというラコの強い意志の表れなのだ。



 

機能美の継承:「Bタイプ」ダイヤル


 

その純白のキャンバスに描かれているのは、B-Uhrの中でも後期に登場した、より実践的な**「Bタイプ」**のレイアウト 。航法士にとって最も重要な情報であった「分」と「秒」を外周に大きく配置し、「時」は内側の小さな円に収める。これは、瞬時の判読性を極限まで高めるために生まれた、究極の機能美だ。この歴史的遺産を現代に継承することで、「アーヘン39 ポーラー」は美しいだけでなく、道具としての本質も失っていない。



 

青の変奏曲:極海の光と氷


 

この時計の表情を決定づけているのが、白の上で舞う「青」のアクセントだ。 時分針に施されているのは、単なる塗装ではない。鋼を寸分の狂いなく熱することで、その表面に瑠璃色の酸化被膜を形成させる伝統技法、**「サーマルブルー(青焼き)」**である 。お手元の写真でもわかるように、光の角度によって深い藍色から鮮やかなコバルトブルーへと表情を変える様は、まさに生きた鋼の輝き。



そして、その針と完璧に調和するのが、メタリックにきらめくインデックス。ラコはこれを「暗い極地の海ときらめく氷山の間の光の戯れ」と詩的に表現するが 、それは決して誇張ではない。見るたびに異なる表情を見せるこの青の変奏曲は、所有者にしか味わえない密かな喜びを与えてくれる。



 

極夜のオーロラ:暗闇で明かされる真の姿


 

この時計の物語は、光が失われた時にクライマックスを迎える。 針とインデックスに塗布された蓄光塗料**「スーパールミノヴァC3 ブルーライン」** 。日中の光を蓄えたそれは、暗闇で神秘的なターコイズブルーの光を放つ 。一般的な緑色の夜光とは一線を画すこの幻想的な輝きは、極夜の空に揺らめくオーロラそのものだ。



日中の「白と青」が極地の昼の姿だとすれば、暗闇に浮かぶこの光は、その静かで美しい夜の姿。「ポーラー」という名の物語は、この二つの顔を持つことで、完璧に完結するのである。

 

第3章:器としての哲学 – 細部に宿るクラフトマンシップ


 

この卓越した文字盤を収める器、すなわちケースやストラップにも、ラコの哲学が貫かれている。

  • ケース仕上げ: ケース全体には、光の反射を抑えるためのサテン(ヘアライン)仕上げが施されている 。これは、コックピット内での眩しさを嫌うパイロットウォッチとしての機能的な要請に根差した、質実剛健な仕上げだ。



  • 現代的なサイズ感: オリジナルのB-Uhrが直径55mmという巨大さだったのに対し、本作は現代の日常使いに最適な39mm径にリサイズされている 。歴史への敬意と、現代のユーザーへの配慮が見事に両立している。



  • 伝統のディテール: 分厚い飛行グローブをしたままでも操作できた、大型のリューズ。そして、飛行服の上からでも装着できるよう考案された、リベット付きの堅牢なレザーストラップ 。これら象徴的なディテールは、この時計が紛れもなくB-Uhrの血を引くものであることを力強く主張している。




 

第4章:賢明なる心臓 – 手の届くドイツ製という価値


 

これほどの物語とこだわりを持ちながら、なぜ「アーヘン39 ポーラー」は驚くほど手の届きやすい価格を実現しているのか。その秘密は、時計の心臓部であるムーブメントにある。

搭載されているのは、日本のミヨタ社製キャリバー「82S0」をベースとした、自動巻きムーブメント**「Laco 2S」だ 。世界的に高い評価を受ける信頼性とコストパフォーマンスに優れたムーブメントを戦略的に採用することで、ラコは自社のリソースを、この時計の個性を決定づける他の要素、すなわち高品質なケース仕上げ、ユニークな文字盤デザイン、伝統的な青焼き針、そして



「Made in Germany」**を保証する最終的な組み立てと品質管理に集中させているのだ 。



これは、ブランドの価値を損なうことなく、本物の歴史を持つ時計をより多くの人々に届けるための、極めて賢明な選択と言えるだろう。

 

結論:歴史と感性が交差する、ただ一つのタイムピース


 

ラコ「アーヘン39 ポーラー」は、単なる美しい時計ではない。それは、第二次世界大戦の空の記憶を宿す「B-Uhr」という歴史的遺産をキャンバスに、極北の地の厳しくも美しい自然の情景を描き出した、一つの芸術作品だ。

純白の雪原、きらめく氷、そして極夜のオーロラ。そのすべてが、直径39mmの世界に凝縮されている。世界でわずか250本という希少性は、所有する喜びをさらに特別なものにしてくれるだろう。

これは、歴史を腕に纏うという知的でロマンティックな体験。パイロットウォッチの愛好家はもちろん、自分だけの特別な物語を持つ一本を探しているすべての人に、自信を持って推薦したい傑作である。


https://www.miyako1912.co.jp/watch/brand/laco/products/laco_862184-pilot-aachen39-polar/

 

https://youtu.be/RQXffe9lV5g